ブリリアント・レンタルワイフ7

実体験小説
わたしが妻を他人に抱かせる理由
ブリリアント・レンタルワイフ 
7

「命令されたのか? こうしろって」

「そうよ、命令されたのよ。教えられたのはこれだけじやないわ。ほら、こんなことも……」

 美憂はそう言うと、今度は舌ではなく指をアナルに挿入する。挿入した指を鍵状に曲げて敬一の直腸上部にある前立腺をコリコリとくすぐった。敬一のいきりたったペニスがびくんっ、と痙攣した。

「ああっ、出てしまう」

 年齢のこともあるが、普段の敬一の射精は遅い。美憂のヴァギナの摩擦刺激だけでは物足りなくて、最後は自らの手で白い液体を放出させることもしばしばだった。それがこのときは、アナルに指を突き入れられただけで暴発しそうになってしまっていた。

 敬一の脳裏に、妻が他人と交わっている光景が浮かんできた。その場に居合わせたわけではないから、それは敬一の妄想にすぎない。

 が、それはあまりにリアルで刺激的だった。

 

 妻が、他の男と変態的なプレイに耽る……。俺以外の男のペニスを咥え、アナルを舐めつくす。美憂のあそこが他の男の口に吸われて、この白い肉体が歓喜に蠢く。俺以外の男と体を密着させて、相手の腰に太ももを絡ませる。男の動きに合わせて喘ぐ妻……。

 美憂に刺戟されることで敬一の妄想は膨張する宇宙のように果てしなく広がっていく。観念的といえば観念的だが、その妄想は敬一にとってはなによりも素晴らしい性的な刺激だった。

 それを他人の男に抱かれたばかりの妻が、得たばかりのテクニックを駆使して増幅させてくれる。

 妻を他人に貸し出す——。

 敬一にとってそれはちょっとした思い付きに過ぎない考えだった。しかし、それが思いもよらず敬一を夢中にさせた。

 セックスが楽しいものになっただけではない。歳の離れた若い妻に対する愛おしさも増している。

 若い頃の敬一は人並み以上に遊んではいた。一時はSMクラブに足を運びもし、女を嬲る心地よさも知った。だが、ある日、SMプレイに使う道具のそれぞれが滑稽に思え、急にしらけた。

 鴨居に吊るされた女を痛くもないムチで打ち据えて何が楽しいのだ。かといって、相手の肉体を本当に傷つけて快楽を得るなど、精神が病んでいるとしか思えない。なによりもそれは、犯罪ではないか。

 若い妻と結婚した当初から、敬一は性に対して希望を失っていたのだ。結婚当初、妻の体を抱いたのは、中年になって初めて所帯をもった男の、おままごと的夫婦生活だったのだ。だから、すぐに飽きが来た。

 それがふとした思い付きで始めた行為によって、一気に様相を変えのだ。

 妻を貸し出し、その後する妻とのセックスは格別だ。妻も一人の男に縛られない奔放な性生活の魅力を最初の経験で知った。それが美憂にとって甘美な経験だったことは、他人の男に抱かれた直後の妻の乱れぶりからもわかった。

 友人に妻を貸し出して以後、敬一は一月に一度のペースで美憂を他の男性に抱かせることにした。相手は身元の知れた友人・知人たちである。

 敬一の申し出に、彼らは最初はひるむものの、結局は美憂を抱いた。どんな男にも他人の妻を抱いてみたいという思いがあるものだな、と敬一は思った。

 では、敬一にその思い——他人の妻とあいまみえてみたいという気持ち——があるかというと、そうでもなかった。

 敬一が抱きたいのは他の男と淫らな行為に耽った後の妻だけだった。

 そのときの美憂の肌触りや性戯は、プレイの最中に生じる妄想と入り混じり、現実とも虚構ともいえない不思議な感覚を敬一の脳裏に刷り込んだ。

 時としてそれは、敬一の日常にもむくむくと具体的なかたちになって現れてくる。敬一はたまらなくなって、仕事中に会社のトイレでオナニーをしてやり過ごした。

 手のひらに付着した白い液体を洗面所で洗い流しているうちに、一度しぼみかけた妄想が、また膨らんでくる。

 そんな日は仕事もそぞろになり、一目散に会社を後にすると、とるものもとらずに美憂の肉体を貪るのだった。

 

 児玉が自分の妻にしたことをきいているうちに、敬一の欲望が高まってくる。児玉が美憂に施した『羞恥プレイ』は、美憂にとって初めての体験だったはずだ。自分も妻を辱めてみたい。

「これからバーで一杯やらないか?」

 部屋には児玉がオーダーした酒が残っていた。飲むことを楽しむのであれば、新しいグラスとアイスキューブを取り寄せるだけでいい。

にもかかわらず敬一が妻を誘ったのは、バーの薄暗い空間のなかで、背徳の遊戯を楽しみたいからだった。

「でも、パンティははいていってはいけないよ。ブラジャーもだめ。わかったね」

 敬一の思惑が美憂にはすぐに理解できたようだった。

「いやらしいこと、するのぉ?」

 そう言う妻の唇がリップグロスを引いたように濡れて光っていた。

 美憂がこの日まとってきたスカートは、前に屈めばヒップが覗いてしまうほどの短さだった。しかも相当にタイトで、ヒップのラインが強調される。若い肉体だからこそ着ることができるスカートだ。

 敬一は裸の上半身にジャケットだけを羽織るように命じた。ボタンをすべてとめても胸元のほとんどがあらわになってしまう襟のない黒いジャケットである。

 美憂がちょっとでも肩をすぼませれば、豊満なバストはくっきりとした谷間を作ることだろう。

 そんな姿の妻を連れて、敬一は最上階にあるバーラウンジに向かった。ラウンジに向かう途中のエレベーターのなかで、ふたりは初老の夫婦と一緒になった。

 美憂の艶かしい姿に初老の夫は口元を緩ませ、妻は眉をひそめていた。敬一はこれ見よがしに美憂のタイトスカートに手を廻し、撫で回した。

 ラウンジはほどほどに込んでいたが、ふたりは空間の中央あたりの席に案内された。

 ピアニストがフライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンを奏でていた。

「わたし、この曲、好きよ。でもなんていう曲なの。そういえばあなたの車のCDボックスにも入っていたわね」  メロディーは知っていてもオリジナルのシンガーが誰であるのかはもちろんのこと、曲のタイトルさえしらないことに、敬一は美憂との歳の隔たりを感じた。だが、そのことがとても楽しく感じられた。

(続く)

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