ブリリアント・レンタルワイフ8

実体験小説
わたしが妻を他人に抱かせる理由
ブリリアント・レンタルワイフ 
8

 敬一も周りの客たちの反応をうかがう。と、敬一の後ろにいた男女が、美憂のあらぬ行為に気がついたようだった。

 男女は額を寄せ合い何ごとか囁いている。「あの女の人、へんなことしている」「おっぱいを出しているわ。露出狂」ピアニストは次の曲を奏でていた。マイ・ファニー・バレンタインをスーパースローで弾いている。その、音と音の間から、男女の囁きが敬一に届いていた。

「僕の後ろのカップルね、どうやら気がついたようだよ」

「男の人がちらちらわたしを見てる」

「どんな気分?」

「恥ずかしいけど……」

「恥ずかしいけど、なに?」

「もっと見てもらいたいっていう気持ち」

 美憂はそう言うと、ほんの一瞬だが片方のバストをすべてさらけ出した。

 ジャケットをずり下げた反動で美憂のバストがぷるっと震えた。敬一の後ろから男の「おおっ」という感嘆の声が聞こえた。

 敬一はグラスに半分残っていたジントニックを一気に飲み干す。アルコールの刺戟がズボンのなかで硬くなり続けているペニスを刺戟した。その感覚が「妻をもっと淫らにさせたい」という気持ちに変わっていく。

 敬一は手を上げて合図をするとウェイターを呼んだ。ウェイターはすぐにやってきて、敬一のオーダーを聞く。カクテルの類ではもう物足りない。敬一はウォッカを註文することにした。

「銘柄の指定はできますか?」

「はい、そう多くはありませんが、何種類か取り揃えておりますが」

 ウェイターが敬一とやり取りしている間に、美憂は黙って自分から三つ目のボタンをはずした。目前の妻の胸がはだけた。美憂は夫を見据えて「これでいい?」とコケティッシュに潤んだ瞳で訴えた。

 ウェイターは敬一の註文を聞くと、何事もなかったかのようにその場を去っていく。

「わたし、酔ったのかな。ちょっと大胆なことしてみたくなった」

 そう言いながらストローを咥えるたびに、正面に座る敬一には妻のバストがすべて見えた。ふたりの周囲の客たちも、美憂の行為に気がつき始めている。

 ほとんどが男女のカップルだが、男は一様ににやつき、女の半分は美憂を侮蔑した面持ちで、もう半分は信じられないといった表情で、敬一の妻に視線を注いでいた。

「大胆なことってどんなこと?」

 たとえば、この場でジャケットを脱ぎ捨ててしまうのは大胆な行動には違いない。しかし、そんなことをすれば、たとえ客たちが望んだとしても、この夫婦はラウンジから追い払われてしまうだろう。

「隣に移っていい?」

 それまで敬一と向き合うかたちで座っていた美憂はそう言うと、夫の返事を待つことなく移動した。その瞬間、もともと短いスカートをたくし上げて座る。美憂のアンダーヘアーが姿を覗かせた。

 テーブルのかげになっている薄暗い中でも白い太ももと黒いヘアーのコントラストが見て取れる。

「うふん」

 美憂は鼻で笑うと、敬一にぴったりと体をよせた。

「ねえ、触ってよ。わたしのお○○こに」

 手首を握って自分の股間に導く美憂が、敬一には一瞬自分の妻ではないように思える。この女はすべての男のものだ。すべての男には美憂を見る資格がある。

 いや、むしろ、この美しい妻を見てあげなければならない。敬一はそんな境地に陥っていた。

 導かれた先はすでに広げられていた。アンダーヘアーの感触が敬一の指先に伝わる。

 その奥に指を進めると、ひと際高い体温と、濡れる粘膜の感触が伝わった。

「はぁぁぁぁ……」

 美憂が目を閉じて吐息を漏らした。

 敬一は早くからふたりのアブノーマルな行為に気がついている後ろのカップルに視線を送る。ふたりはまるでいけないものでもみてしまったかのように同時に目を伏せた。

「どうやら恥ずかしがっているのは、あのカップルのようだね」

 敬一が美憂に囁く。

「恥ずかしいのはわたしも同じよ。でも気持ちいいのはわたしだけかも」

 薄暗いバーラウンジとはいえ、この夫婦の行為は大胆といえば大胆すぎた。

 おそらく今は、敬一たちをとりまくすべての客が、公衆の面前で行われるはずのない淫らな戯れに注目している。

「あっ、そこ、いい気持ちっ」

 美憂が眉間に皺を寄せて喘いだ。敬一の指がクリトリスとヴァギナの間を圧迫していた。

そうされて快楽の表情を隠そうともしない美憂は、その手を敬一の股間に移動させる。ズボンの上から夫の勃起したペニスの輪郭をなぞるようにして愛撫する。

 ウェイターがウォッカを運んできたが、ふたりはお構いなしにエロチックな遊戯を楽しむ。むしろ、みてくれと言わんばかりに。

 敬一の指はゆっくりと、しかし間断なく流れ続けている美憂の愛液でたちまちのうちにぐっしょりと濡れそぼった。

 あのふたりはこれからどんなことをするのだろう。

 みんなの見ている前で女を抱くのではないだろうか。

 変態よ、変態。バーであんなことをするなんて絶対に変態。

 わたしもあんなふうにして愛撫してもらいたい。

 自分たちを取り囲む客たちの視線がそう囁いているように敬一には思えた。その妄想が敬一と美憂にとってはイケナイ薬になっている。

 敬一はジャケットに覆われているだけの無防備な妻のバストトップに、指先で掬い取ったウォッカのしずくを滴らせた。それは歓喜の涙のようにバストの膨らみを伝っていく。

 美憂の呼吸が荒い。あばらが上下に動いている。敬一はもう何度となく味わった美憂のバストの感触を、新鮮な気持ちで味わった。普通の空間で織り成す異常な愛の戯れは、以前の感覚をリセットしてくれる。

「お酒はもういいわ、あなたに抱いてもらいたい」

 美憂はペニスを弄んでいた手に力を込めて言った。そして、大胆にも敬一の耳たぶを子猫のように咬む。

 自分からセックスの催促をするときの妻は本当に輝いている。敬一は心の底からそう思っている。

 そして、どんな女よりも素晴らしく見える。今、目の前にハリウッドスターが現われたとしても、スーパーモデルが現われたとしても、妻の魅力にはかなわないと思う。

 妻を貸し出すことによって生じる背徳の情や嫉妬が、美憂に磨きをかけるのだ。精神にも肉体にも。

 敬一はショットグラスに注がれたウォッカを一気に飲み干す。そして、妻の要望に応えるかのように、ヴァギナ奥深くに指を挿入し、二度三度と出し入れした。

「ああっ」

 反射的に美憂が喘ぐ。バーラウンジではめったにとどろくことのない、女の性的な喘ぎ声。周囲の客たちのみならず、ピアニストまでもが敬一たちのテーブルに注目した。ピアニストは、サム・ワン・トゥ・ウォッチ・オーバー・ミー(誰かが私を見つめてる)を演奏していた。

                                                                          了 

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